Conversation
〜okaeshi〜
「おい、サル、こっちを向け」
「な,なんだい?榎さん、改まって…」
「いいからこっちを向けって」
「……榎さん?」
「なんだ、赤い顔をして…ホントにお前はサルだな」
「ど、どこを触ってるんだ」
「どこって…人聞きが悪い。髪を撫でただけじゃあないか。…なあ、関……」
「そ、そんな眼で見られても……ど、どうしたんだい?」
「僕はお前に何をしてあげられる?」
「……榎さん?」
「お前の望むことなら何でもしてやる。お前の欲しいものなら何でも与えてやる。この命が欲しいというのなら、このままこの胸を切り裂いてこの心臓を…」
「どどどどどうしたんだい?榎さん、藪から棒に…さ、酒でも飲んでいるのかい?」
「……」
「……榎さん?」
「本当にお前は、雰囲気というものが読めないな」
「…はい?」
「和寅はわざわざ遣いに出して、ここには今、僕とお前と二人だけだ」
「…うん…?」
「そして、そろそろ陽も傾きかけてオレンジの光がこの窓辺を照らしている」
「今日もいい天気だったねえ……って痛いじゃないか」
「黙って聞け。サル」
「……何だよ…一体…」
「そんなオレンジの光の中、こうして近く顔を寄せ合って、この神が囁いているんだぞ。もう少し、ムードというものを読んでもいいんじゃないか?」
「オレンジ色……夕刊フジ?」<←まだないか?*『オレンジ色の憎いやつ』というCMが今から十数年前に流行った…って、年がばれるか?うさこ(汗)>
「……」
「痛っ…何もグーで殴らなくても…」
「殴られるようなことを言うお前が悪い」
「……だから、何だって言うんだよう…榎さんにして欲しいことかい?」
「…わかってきたじゃないか」
「やたらめったら殴るのは止めてほしい…って、聞いてくれないじゃないか〜」
「そういうことじゃ、なくてだな」
「どういうことなんだよ…あ、人前でサルとか馬鹿とか言うのは止めてほしいな」
「だからそうでもなくって!」
「えーっと、…あ、それじゃあ最近生活苦しいから、蟹でも送って貰えないかな。雪絵が蟹、好きなんだよねえ」
「……終いには怒るぞ」
「…え、榎さん、一体どこを触ってるんだ」
「関がいれば…僕は関がいれば、毎日満ち足りた気分になれるんだ」
「……榎さん…?」
「お前がこの手の中にいるこの時間が、何よりの至福の時なんだ…」
「……榎さん…」
「僕をこんなに満ち足りた気分にさせてくれる関に、僕は何をしてあげることが出来るんだ?」
「榎さん…そんな…僕だって」
「関」
「僕だって、榎さんと一緒にいる時間が、何より幸せを感じることが出来る時間だよ。こうして二人で過ごすことは滅多に出来ないだけに、本当に貴重で…何より大切にしたい時間なんだ」
「関…」
「榎さんとこうして近く近く身体を寄せ合って、何でもないことを話し合って笑って…それだけで、僕は本当に幸せな気持ちになれるんだ」
「…そんな可愛いことを言われると…」
「榎さん……」
「……」
「……」
「関…」
「……僕の方こそ、榎さんが僕に与えてくれるもの全てを、あなたにしてあげたい。……僕にできることは本当に僅かで、あなたが与えてくれる幸せの一億分の一にも満たないかもしれないけれど……」
「本当に?」
「本当だとも……って、な、何を一体?!」
「よく言った!関!」
「ななななに?って、榎さん、この手は一体…」
「あはは、本当に僕がお前に与える全てのことをそのまましてくれるんだな?確かに今、そう言ったよな?」
「い、言ったけど?」
「忘れるなよ?お前はサルだから三歩歩けばすぐ忘れるからなっ!」
「それじゃあ鶏だよう…」
「トリ頭は鳥ちゃんだっ。お前はサルじゃあないか」
「ど、どうでもいいけど、人を担ぎ上げたまま言う言葉じゃあないだろ?」
「ふふん、これからベッドに直行だ」
「ベ…ベッド??」
「お前にしてやる全てのことを、この僕に返せよ?普段お前が恥ずかしがってやらないような…」
「な…っ」
「あ、最後までは僕のやることをなぞらなくていいぞ。それは絵的にちょっと見苦しくなりそうだからな。何より僕が嫌だっ」
「さ、最後って……あの…」
「……う〜ん、でもトリ頭並の関が、僕のやったことを覚えていられるかは不安だな……」
「そんな心配しなくていいよ」
「でも最中にメモるのは勘弁して欲しいぞっ」
「するかっ、そんなこと」
「いつも関には奉仕してばっかりだからな。たまにはおかえししてもらわないと」
「ほ、奉仕……あれを奉仕と言うなら…でも最後は結局僕の…えーっと、僕の…」
「何だ?」
「ぼ、僕の……中で…」
「はっきり言え!」
「……いえ、何でもありません」
「よし、いい子だっ。おかえしにはおかえし、『眼には眼を、歯には歯をっ』が僕のモットーだっ」
「榎さん…」
「なんだ?」
「それは『おかえし』というより、『仕返し』じゃあ?」
「どっちでも同じことだっ。」
「微妙に違うと思うんだけどなあ…」
「何をぶつぶつ言ってるんだ…こうしてお前がこの手の中にいる。…それが全てだ」
「…榎さん……そんなに僕のことを…僕だって、榎さんがいれば…他には何にも……」
「何を愚図愚図してるっ!さあっ始めるぞっ」
「……」
「さあっどうした?関っ」
「……ムードがないのはどっちだよう…」
オレンジ色の夕陽が榎木津ビルヂングを染めて行く――
果たして関が、榎木津のやることをそのままなぞれたかはさだかではない。
<終>