不意打ち
手を繋いでもいいかい?
不意にそんな可愛いことを言われて、聞き違いかと自分の耳を疑った。
一瞬の躊躇が、声の主の頬を真っ赤に染める。
「なんでもないよ」下をむいたまま足を速めようとする関の腕を後ろから掴んだ。関は前を向いたままだ。肘のあたりを掴んだのでそのまま手のひらの方へと手を滑らせ、その手を握った。
「暖かいな……眠いのか?」笑いながらそう聞くと
「子供じゃあるまいし…」と関はまだ前を向いたまま照れたようにそう呟いた。
誰もいない海辺。先月ここに関をつれてきたときは雪が降っていた。
あのとき僕は可也参ってしまっていて、雪の中、関を抱き締めたまま長いこと海を見つめていた。
関は何も聞かなかった。何も言わなかった。
泣きそうな顔をしながらじっと海を見つめていた。
守りたい、と思った。
彼にそんな顔をさせてしまったのは僕であるのに。
関を守りたかった。この世の全ての災厄から彼だけは守りたいと思った。
自然と力が沸いてきた。我ながら現金だなと心の中で苦笑した。
関がいる限り、僕は強くなれる。
彼を守るために
何が起ころうとも彼の為に僕はどんなことからでも立ちあがれる。
守るべきものがあるということが、僕自身の心を強くする。
彼がいる限り――僕は道を真直ぐ歩いていくことができる。
海が見たい、と言った関をまたあの浜辺へと誘った。
相変わらず寒い中を、僕たちは言葉少なく歩いた。
関はこの前のことを思い出したのかもしれない。
「手を繋いでもいいかい」
思い出して、心細くなったのかもしれない。
何を考えているかわからない僕が何処かへ消えてしまうとでも思ったのだろうか。
どこへも行きはしない。関がいるかぎり。
関を守るために。
関の傍から離れはしない。
そんな思いを込めて、力強く関の手を握り締めた。
関が気付く日は来るのだろうか
自分がどれだけ僕の救いになっているか
僕の支えになっているか
僕の心を温めてくれているか
海からの風は冷たくて、分厚い外套の中まで冷気が染み入ってきたけれど、繋いだ手だけは暖かかった。
愛とはこんなカタチをしているのかもしれない
余りにも青くさい言葉が頭に浮かんだが、流石に言う勇気がなくて、僕は黙って関の手をもう一度ぎゅっと握り直した。
<終>